サラリーマン、モデル、高齢者、お笑い芸人、フリーター、ミュージシャン、アーティスト、ライター、カフェオーナー……。
一般の方からアクの強い方まで混在しているのに、どのような属性の人でも「風景」としてすんなり街に溶け込んでしまう、そんな不思議な魅力が高円寺にはある。
「じゃぁ、他人の目に、高円寺はどのように映っているのだろう」
そう思ったことが、今回の企画『高円寺サラダボウル』の発端だ。
6月某日。高円寺北口では街コンが開催されていた。男女総数500名で街が賑わっていたその頃、新高円寺のアパートの一室で、ある人物へのインタビューが行われた。
小野和哉、27歳。雑誌の編集をするかたわら、同人誌の制作に携わっているという。
さて、男性であれば誰もが一度はこう思ったことがあるはずだ。
「モテたい」と。
ほとんどの人は決して口には出さない。なぜなら「モテたい」と口にすることは、多くの人にとっては恥ずかしいことだし、今自分が現在進行形で「モテない」ことを認めるようなものだから。心の中で思うだけに留めるわけだ。
「モテたい」という願いを込め、4月からここ高円寺に住みはじめた1人の編集者。高円寺は、彼の目にどのように映っているのだろうか。
小野さんは、現在どのような仕事をされていますか?
制作会社で雑誌の編集を担当しています。紙媒体からウェブ媒体まで、時代にあわせて手広く手がけている制作会社なんですが、僕はその中で月刊誌の部署に配属されています。あと、仕事と並行して個人でも雑誌をつくっています。同人誌ですね。
同人誌?
はい。もともと大学で童貞研究をやっていたんですけど、それを活かして『恋と童貞』という雑誌をつくっています。「乙女心よりも純情なドウテイ心をむやみに追求する雑誌」というテーマのミニコミ誌で、タイトルは銀杏BOYZ峯田和伸さんの『恋と退屈』からきています。
今の会社は2社目なんですけど、実は前職でリストラされまして。そのとき、溜まっていたうっぷんを何かに落とし込もうと考えたときに、もともと僕が持っていた「雑誌をつくりたい」という気持ちに行き着いたんですよ。
そこで、大学時代の童貞っぽい男友達をセレクトして声をかけたんです。リストラされて無職のときに声をかけたので、「この人、手伝ってあげなきゃかわいそう」ということで協力してくれたんでしょうね。結果的に最高の「チーム童貞」が結成されて、出版することになりました。僕が編集長です。
……ということは、小野さん童貞ですか?
………今は、童貞です。
もう一度よろしいですか?
童貞です。
ありがとうございます。
小野さんが高円寺に住もうと思ったきっかけはなんですか?
もともと総武線沿いの別の街に住んでいたんですが、そこは僕にとってはそこまで刺激的な場所ではなかった。もうちょっと「楽しげ」な街に行きたいなぁ、なんて思っていました。
あるとき、みうらじゅんさんの『みうらじゅんの青春ノイローゼでショー』というDVDが中古で売っていたので、買って見てみたんですが、それがめちゃめちゃおもしろかった。
みうらさんが中学高校のときにつくった歌を延々と歌うんですが、童貞のクセに壮大な歌を歌ってるんですよ。人類創造の歌とか、バレンタインデーにチョコがもらえなくて悲しい歌とか。それを見てから、「みうらじゅんといえば高円寺だろ。よし、ベタだけど高円寺に住もう!」ということで、高円寺に住むことにしました。
実際に住みはじめて、高円寺への印象は変わりましたか?
引っ越す前も、高円寺まで遊びに行くことはよくあったんですが、「やっぱり高円寺はおもしろい街だなぁ」とあらためて実感しましたね。新高円寺界隈はあまり知らなかったので、今はそのあたりの発見を楽しんでいるところです。
あと、何なんでしょうねアレ。高円寺は「ご自由にお持ち帰りください」がめちゃめちゃ多いんですよ。ホント何なんだろう。家の近くだけで3スポットもあります。工業用品が多い激渋なスポットとか、ハンガーだらけのアパレルスポットとか。一番のホットスポットは家の近くの神社なんですけど。
実際に持って帰ってきたものはありますか?
一度だけ茶碗を持って帰ったことがあります。使ったことはないけど。
たまに3スポットのチェックをするんですけど、新しいもの見つけたら「新作入荷だ!」とテンションがあがって、Facebookにアップしています。子ども用のコップもたまにあるから、「老若男女、ご家族でも安心」みたいな。
やっぱり住みはじめて、高円寺の印象は変わったんですね。
そうですね。新しい発見ばかりです。
じゃぁ、童貞のプロになって、「童貞」の印象は変わりました?
へ?
童貞のプロとしての考えをお願いします。
……大学のときは童貞がブームでした。電車男とかサンボマスターとか、モテない男がフィーチャーされていた。いい時代でしたよ。童貞であることが一種のステータスだったんです。
それが今や、童貞であることを発言するのが恥ずかしくなくなってきた。童貞ブームが去ったんです。『恋と童貞』で童貞を扱うことすら、もはやオールドスクールカルチャーなのかもしれません。
だから今は、「モテたい」と思うようになりました。昔は「どうせモテないし」と考えていたんですけどね。不思議です。モテたいです。マジで。
なるほど。
高円寺と他の街との違いって何だと思います?
住んでいる人がおもしろいですね。理由はわかんないんですけど、「ライター・編集・カメラマン」が多いイメージです。そういった業界の人が集まるお店も多いみたいですし。以前は一旦電車に乗らなきゃ会えなかったような人たちを目にするようになりました。
高円寺で好きな場所、よく行くお店はありますか?
BASEというレコード屋ですね。マニアックなレコードが多い。実は高円寺に住む前から利用することはあったんですけど、高円寺に住みはじめてよく行くようになりました。
僕、パンク・ロックが好きでして。パンクに生きたいなぁと。「俺はパンクロッカーだ!」と思いながら、毎日過ごしています。ギターも持ってるんですが、弾きません。そのほうがパンクなので。
あと好きな場所と言えば、AYUMI BOOKSですね。夜1時まで開いてるから、会社帰りでも寄れる、遅くまで開いている本屋は心強いですよね。品揃えもオシャレですし。好きです。
好きなのは、BASEとAYUMI BOOKSと。
そうです。
好きなAV女優はいますか?
翔田千里さんですね。熟女です。
そうすか。
理想のデートコースとかありますか?
難しいですね。やっぱり、自分の好きなスポットに連れて行きたいです。さっき話したレコード屋とか。ハイスピードで「テンテンテン」ってレコード選びたいですね。後ろで彼女が「何やってんのー?」って見てるんですよ。でもそれを尻目に、僕は「テンテンテン」ってレコードを探す。音を立てずに早くテンテンする人って、イケてるじゃないですか。そこでかっこ良さを見せたいですね。
その後、座・高円寺でイケてるイベントを見たいですね。終わったら定食屋でご飯食べて、銭湯に向かう。下駄をカランコロンしながら家に帰って、そこで一戦交えたいですね。最近ソファー買ったばかりですし。
このソファー最近買ったんですか。
そうです。カッコイイレコードラックもありますよ。ソファーもそうですけど、いつ友達が来ても大丈夫なように、引越しの後、いろいろ揃えました。
ベランダでバーベキューしたいですね。たこ焼きパーティーとかも。みんなでケツメイシとか聞きながら、お酒飲んで騒ぎたいです。
小野さんお酒飲めるんですか?
いえ、飲めません。
童貞ですよね?
うん。
なるほど。
では、この記事を見てる人に向けて、高円寺の魅力を一言お願いします。
高円寺には面白い人がたくさんいますし、面白いスポットもたくさんあります。「今住んでいる街は好きだけど、何か物足りないな」って思ってる人に、高円寺はオススメです。
あと、「高円寺に住んでるぜ」ってだけでモテそうな気がするんで、モテたい人にもオススメですね。
中には、「高円寺?ベタだね」って人もいるかもしれません。でも、住んでみたらやっぱり面白いし、いい街ですよ。新しいことをはじめようとしてる人も多いので、刺激になります。
「くすぶってる人はおいでよ。この街に」みたいな感じです。
2ヶ月しか住んでないですけどね。
童貞の人にも一言お願いします。
ダークサイドに落ちちゃダメです。僕も昔は、ダークサイドに落ちては「俺はダメだ、もう終わりだ」と、ネガティブになって殻に閉じこもっていました。『恋と童貞』は、その“ネガティブな面”を面白く転換できればいいんじゃないか、という考えからスタートしています。モテなくて本気で悩んでる人もいると思います。
モテないっていう状況はきっと、周りから見ると面白くて笑える状況かもしれないんですけど、実際本人にとってはめちゃめちゃ深い悩みであることも多いんです。それをネガティブにとらえずに、ポジティブに転換して開き直るといい。開き直ることは、決して恥ずかしいことじゃないんです。せめて自分の中で、女の子にモテるように、胸を張ってがんばっていけばいい。
ポジティブに考えていきましょう。最終的には自分がどうしたいか次第だけど、もっとポップな感じに生きていいと思います。希望はあります。僕はモテてないけど、希望はある。女の子の友達も全然いないけど、希望はあります。
翔田千里さんにも一言お願いします。
ご自愛なさってください。新作楽しみにしています。
ありがとうございました。
翔田千里さん、新作お待ちしています。
小野和哉(おの かずや)
同人誌『恋と童貞』編集長。近日、『恋と童貞』第5号発売予定。
Twitterアカウント https://twitter.com/koi_dou
[ライター/あらいまさひろ カメラ/酒井栄太]
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高円寺サラダボウル 小野和哉(27)、編集者の場合。
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